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暮らしてみたアメリカのこと。留守にしていた日本のこと。

たすきがけのFUJI(写真について6)

「Nikon huh? 」 「I have a Canon too 」 アメリカの路上で写真を撮っていると、見知らぬ人にカメラ談義に引きずりこまれることが多い。決して嫌ではないが、撮影の最中にこれをやられると困るので、対策に私は機材のロゴを黒いテープで覆うようになった。…

元ちとせの声

観たことのない映画のワンシーンを頭の中に描けるのは、作品のビデオのパッケージに使われていたあの写真のせいだ。 ひとり佇む年配の黒人女性の背後に、白人の若者が立っている。彼の手には釣り竿のようなものが握られていて、持ち上げた棒の先端には小型の…

品川駅のミステリー

発車間際の東海道本線。新橋駅のホームを女が急いでいる。 手に持った白いコートのポケットから、携帯電話が落ちた。小走りの彼女は落としたことに気づいていない。そのまま私が乗っている車両の隣に飛び乗ったようだ。 サラリーマン風の男が携帯を拾い、後…

日経、紙で読む

日経新聞を紙で購読している。 「デジタル・メディアに働いてるのに、紙で読んでるですか?」と笑った同僚は20代だ。紙メディアのジリ貧ぶりは皆の知るところだけれど、支えてきた年配層ももう手にとらないのだろうか、公の場で新聞を広げている人をすっか…

場違いな賛美歌

ワシントンD.C.の夜空に派手な花火が打ち上がった。 そこに大音量で流れる歌が「ハレルヤ」だったことに不意を突かれた。しかも二度かかった。一度目はカントリーっぽい女性ボーカルのカバーで。その後はステージに立ったオペラ歌手のライブで。 先月の末、…

安倍首相の思い出

「限られた時間のなかで、ルールに基づいて記者会見っていうものは行われております。ですから早く結論を質問すれば、それだけ時間が浮く訳であります」 そう言い放って彼は、口の端を引き上げて笑った。記者たちからも小さな笑い声が起こった。 先日の菅官…

ヒリヒリの空気

Sunday is the most segregated day in America. 「アメリカが最も分断される日は日曜日」という言い方がある。 集う教会が人種間でほぼ別れているから、神聖とされる日に一番バラバラなのは本当だ。午後になれば、NFLとかNBAとか国を挙げての「儀式」がある…

「大草原の小さな家」

週末の朝早く、目が覚めたので何気なくテレビをつけると、「大草原の小さな家」をやっていた。 アメリカの懐かしいドラマだ。 かつて国会でゴタゴタがあり、NHKが放映中のこのドラマを中断して議場から生中継したことがあった。すると翌日の新聞には、「道徳…

怪ピアニストの息子

才人の子供は大変だという。 精神的な親殺しが成人するための通過儀礼だとすると、確かに端からしんどい闘いを強いられていることになる。 二世のタレントや議員が幅を利かせているのを見ると、上手く立ち回っているような印象が強くて、「何だかなぁ」とい…

道南日記

Day 1なんとか仕事終えて、丸の内改札から八重洲側に東京駅を横切り、 青森行きのバスに乗った。ひとりで北海道に行くと言うと、同僚に「大丈夫?」と言われた。ほっといてくれ。 ウェスト・バージニアからコロラドまで28時間かけてバスで移動したことがあ…

スキャンダル

もし『週間文春』で働いてみるかと聞かれたら、イエスと答えるだろう。 何しろ今、日本でもっとも読まれているメディアのひとつなのだ。 でも会議の度にアイディアを一ダースも出さなくてはならないとか、有名人の不倫現場の張り込みをしなけばならないとか…

不思議な話

世の中には、不思議な話がある。そしてそれを頻繁に体験をする人がいるらしい。超人のオカルトの話ではなく、普通の人たちの身に起こる、説明のつかない出来事。 私には窺い知れない世界だ。 50年この世に生きてきて、あれは不思議だったと思い出せることは…

香港日記 2

Day 1 入国審査官がパスポートを投げて返した。ボーっとしていた私は、それで目が覚めた。ここは日本じゃないんだ。 香港駅からホテルへはリムジンで行く。前に来たときはタクシーの運ちゃんと口論になったんだった。「ホテルまでいくら?」と尋ねたら、「こ…

グルメな私

このブログに食べものの話は出てこない。それは私がいわゆる食通じゃないから。 私だって人並みに美味しいものを食べたいと思うし、食べたときはうれしい。でもそのためにどれくらい努力するかというと、ほとんどしない。所詮ただのメシだろ? という野卑な…

赤信号

仕事帰りの夜道で、車に轢かれそうになった。 いや、ちょっとそれはオーバーか。赤信号の横断歩道を渡る私に、ドライバーがたぶん意地悪をしたのだろう、車を目の前まで寄せてきたのだ。それだけのことだったのに、ぼーっとしていた私は飛び上がらんばかりに…

肩がふれたら

ある匂いを嗅ぐと、特定の記憶が蘇るという「プルースト効果」は、よく聞く話だ。 ではある行動をとると、必ず思い出す人がいるというのはどうだろう? 私にはいくつかそのパターンがある。 洗面所に立ってうがいをするとき、なぜか決まって思い出すのはあの…

小説の話

読みかけたままの小説が増えている。以前は一度手にしたら、ちゃんと最後まで読み通したのに。 好きな作家の作品でも、途中でつまらなくなると止めてしまう。こんなはずじゃないと思ってもう一度トライしても続かない。いとうせいこうの「我々の恋愛」も、小…

いいね

承認欲求を捨てなさい。ブッダはそう説いた。 でもSNSを覗くと、誰も彼もが承認中毒気味に見える。 「私、病気かもしれない」 知り合いのカメラマンが、聞き捨てならないことを言う。 「褒めらわないとやっていけないの」 一緒に写真を展示したことのある彼…

大岡信の「地名論」

授業中の教授がそわそわし始めた。顔を赤らめている。 もったいぶった前置きの後、おもむろに詩の暗誦を始めた。 ポーの「アナベル・リー」だった。 大の大人が若者に向かって詩の朗読することの気恥ずかしさは、自分がおじさんになった今なら理解できるけど…

ディア・アメリカ

アニメでもSF映画でもいい。空を飛ぶ巨大な乗り物が不時着する場面がある。 例えば宇宙船。風が吹き荒れ、辺りは轟音に包まれる。 周りのものすべてをなぎ倒して、地面を削りながらスライドしてゆくカタストロフィックなシーン。 止める術はない。 アメリカ…

坂の途中

作家の丸谷才一は、坂のある町が好きだった。家も坂の近くを選んで住んだらしい。確かそんなことを書いたエッセイがあった。 私は住まいを決めるときに、坂のあるなしは考えなかったけれど、思い返してみると、確かに勾配の多い土地での暮らしは楽しかったよ…

私の浪費癖

イヤホンに浪費してしまう。しょっちゅう断線するし、うっかり置き忘れたりして長く持てない。ないと通勤が退屈になるので、また新しいものを買い求める。 音圧とか再生周波数帯域とかリケーブルとか、くわしくは語れないけれど、ものによって聞こえる音の違…

飲み会で言えなかったセリフ

「あのさ、せっかくの場がしらけるし、正論振りかざすのは嫌なんだけど、やっぱり言わしてもらうわ。さっきからそれで何回も笑いとってるし。大体こういう笑いがあるから本性を隠すんだよ。 一人二人の大声で言う悪口より、こうやって大勢でなんとなく笑うほ…

究極のPC

「どれがあなたの赤ちゃんですか?」 振り返ると、大柄な黒人男性が立っていた。 彼がそこにいるのは知っていた。しばらくのあいだ二人で、窓越しの新生児たちを黙って眺めていたから。もうすぐ夜が明けるころだった。 私は自分の娘が寝ているベットを指差し…

ここではないどこか

地方の出の人ほど、東京に住みたがる。それもお洒落とされる区や駅の近くに。 なんて書くのは、やっかみが半分。東京の住まいに手がでない私は、自分の生まれ育った神奈川県の戸塚という街に戻り、そこから毎日長い時間をかけて東京駅まで電車通勤している。…

A Night in Hiroshima

アメリカには現在、2000発を越える核弾頭が配備されている。未配備や解体待ちを含めると、7000発以上の核弾頭があり、それが相変わらず他国への脅威になっている。そのことを私たちは知っている。 アメリカ政府は今、爆発力を制御し、狙いをより正確に定めら…

6秒の沈黙

トイレに行っていなかったのは失敗だった。小学生の卒業式を甘くみていたわけじゃないけれど、こんなに厳かな雰囲気で、こんなに長い時間やると思っていなかった。 そうは言っても、子供だってちゃんと座っているのに、大人の私がガサガサと席と立っておしっ…

ショーンKに告ぐ

甘いルックス、渋い声、一分の隙もない服装。「報道ステーション」に彼が出てくるたびに、なんとなく身構えたものだ。出来すぎ感が強すぎて、肝心なコメントが印象に残らない。 そのショーン・マクアードル・川上氏、学歴詐称が明るみに出た数日後に涙の声明…

放浪後記

「ジャングル、行きてぇ」と言った彼女の眼が光った。 自分よりひと回り半も若いとはいえ、旅に出たいと言って力むような年齢でもない。でもティーンのころから海外で暮らしてきた彼女にとって、東京はもともと一時的な腰掛けの場所なのかもしれない。 「別…

ゲスマップのきわみやざきよはら

べッキー・ゲスの極み→SMAP→清原→イクメン議員、ときたここまでの2016年… なんてスラスラ書けるくらい、つまりゴシップにだってちゃんと通じられるくらい、日本での暮らしにどっぷりと浸っている。帰国してもうすぐ3年になる。 でもベッキーとローラをずっと…