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暮らしてみたアメリカのこと。留守にしていた日本のこと。

巴里のモス

テレビをつけたら、村上龍氏が出ていた。彼がゲストを呼んでお喋りをする番組らしい。私が学生の頃、彼は同じような番組をやっていたから、ひょっとして20年以上続けてきたのだろうか。そうだとしたら、すごいことだ。

当時彼は、ピカピカのスーツに身を包み、岡部まりさんという素敵な女性の横で、ギラギラした雰囲気を漂わせながら言いたいこと言って、まさに時代の寵児という感じだった。

ちなみに、他にも「懐かしい」と私が感じる人たちが意外に多くテレビに出演しているので、彼や彼女たちの変貌ぶりを見て驚き、改めて自分の浦島太郎ぶりを知る、そういう勝手失礼な視聴の仕方を私はこの頃している。

その日の番組は、もう終わりかけていて、ゲストのモス・バーガー社長が今後の予定を喋るところだった。ヨーロッパへの進出計画を語る社長は、はにかみながら、でも、いかにも大人が夢を語っているという様子で、

「第一号店はパリで、場所も、私はルイ・ヴィトン本店の真横と決めています」と言い切った。

「かっこいいー」と若い女性ホストが反応し、二人の間に座った村上氏も感に堪えないという様子で破顔した。

私は一瞬耳を疑った。こういう構想を会社社長がぶちあげて、周りが喜ぶという時代は、日本ではもうとっくに終わっていたと思っていたからだ。これじゃバブルの時期と同じじゃないか。

ひょっとしたら最近の景気回復の兆しをうけて、今儲かっている人たちの間では、かつてのように派手にやろうという気運が高まっているということなのだろうか。つまり、また一周回ってきたということか。

私はモス・バーガーが好きだ。モス・チーズは美味しいと思う。だからこそ言わせてもらう。頼むからそんなところに店を出さないでくれ、と。

私はパリに行った事がないし、近々行く予定もない。だから、このことが意味する本当のところが分からない。さっきネットで地図を見たら、シャンゼリゼ通りにはマクドナルドが2店あるようだし、それほど大騒ぎするほどのことでもないのかもしれない。

でも、どうしてルイ・ヴィトン本店の真横でなくてはならないのか?

ブランドの権威のような店の横にしゃしゃり出たいという発想自体がめちゃくちゃ格好悪いし、何度も言うけれど、こういうのはもういい加減卒業したのではなかったのか? 近頃景気の良い、近隣国の企業や政治家や旅行者の様子を見て、かつての自分たちの振る舞いを反省したのではなかったのか? 会社のマーケティングだってもっと成熟して、スマートになったのではなかったのか?

ひょっとしたら、これは単なるテレビ用の話題づくりのコメントだったのかもしれない。

あるいは、よくある社長の暴走で、それを止める賢明な社員たちがちゃんと控えているのかもしれない。

しかも村上氏の笑顔の意味は私の見当違いで、つまり実はあれはただの苦笑で、番組構成上何も言えなかったけれど心の中で「オイオイ」とあきれていたのかもしれない。

たぶん違うような気がするけど。

かつてのギンギラ感はもうない作家は、編集後記として、モス・バーガーを「徹底した誠実さ」のある会社だと評して番組を締めくくった。

 

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