キャラハンのつぶやき
シンプルなビートとメロディーの繰り返し。ギターとベース、ドラムに弦楽器が加わるだけのミニマルな音作り。ひたすら無骨なバリトン。
「ペンキが乾くのを見つめるくらい」という言い回しが英語にはあって、つまらないことや退屈な行為の形容に使うが、ビル・キャラハン (Bill Callahan) の音楽を聞いていると、字義通り壁に塗られたペンキを見つめているような気分になる。でも退屈どころか、彼の歌にじっと耳を傾けていると胸奥にひそやかな熱が帯びてくる。
叙情的だけど、メランコリーを寄せつけないラフさがあるので、後味は辛口だ。その歌い方からついレオナード・コーエンやルー・リードと比べたくなるが、彼らのようなスターが纏う演劇性が皆無で、そのぶん妙にリアルなのだ。例えば他の芸術家たちが競って作品を並べているギャラリーの床で、ひとり身体をゴロリと横たえている、そんな雰囲気だ。前身のSmog時代を含めると、彼はもう20年以上音楽活動を続けているらしい。
歌詞も印象深くて、例えば、私の好きな「Jim Cain」という曲はこんな調子だ。
探しものは、ごくふつうのもの
一本の木がどれくらい、風にしなるのかとか
僕は結末を知らずに、ストーリーを話し始めた
以前僕は暗くて、明るくなり、また暗くなった
まだ見ぬものたちが、目の前を通り過ぎた
初めはいつものことだと思ってた
影が消えて、詩歌の光で満ちたから
でも実はまだ、夜の闇に惑される
だから僕はくたくたになるまでやっている
結局知りかったのは、ごくふつうのこと
どうして波は、さざめくのかとか
走り始めたら、コンクリートが砂に変わった
走り始めたら、いろいろ上手くいかなくなった
もしダメになったら、もう戻らないよ
僕がした良いことを覚えていてね
もしダメなったら、もう戻らない
僕がした良いことを忘れないでね
やられちゃった
(拙訳)
詞だけ読むと、何やらのっぴきならない状況が目に浮ぶが、曲を貫いているのは深く静かな諦観で、「ほらよ」と彼が差し出しているのは、覚悟ある大人のモノローグで綴る珠玉のロックンロールだ。