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暮らしてみたアメリカのこと。留守にしていた日本のこと。

捨てぜりふのすすめ

チャックは辛口な男だ。他人に口厳しい分、逆に口撃の標的になる。

先日のパーティーでも小賢しいことを言われて冷笑された。周りでも小さな笑いが起き、恥をかいたと思いきや、起死回生、彼はもっと辛辣な言葉でやり返す。相手は愚の音も出ず周りでは大きな笑い声が起きる。ハイ・ファイブ。

気の効いたパンチ・ラインや捨てぜりふを映画やドラマの中だけのものと思ってはいけない。普段から言葉のせめぎ合いに揉まれ、会話に「落ち」をつけることに腐心しているアメリカ人は、リアルライフでも口が強い。上手くて、速い。

彼らの決めのせりふは、思わず吹き出してしまうものから、ぐさりと心に突き刺さるものまでいろいろだ。例えば...

ユダヤ系のコーリーはしばしば差別的な振る舞いに出くわす。

仕事で訪れたバプテスト教会で名字を告げると、好奇の目で近づいてきた一人の婦人に"You, Jew (ユダ) ?" と言われた。"Are you Jewish?(ユダヤ人ですか?)" ではなく、無礼に響く短縮形だ。しかし手馴れた彼女は、わざと丁寧な口調で 「そうよ、触ってみたい?」と答えて、動物呼ばわりするなとやり返す。相手の婦人は真っ青だ。アナザー・ファイブ。

 

言葉は遅れてやってくるものだから、口達者な彼らにも「ああ言えばよかった」とか「もっとこうすれば」という悔いはあるはずなのに、それはおくびにも出さない。その場その場で野獣のようにやり合うくせに、後腐れがない。

多くの日本人にとって、言い返しや仕返しの言葉は飲み込むものだ。言わぬが花と教えられる。昨日の敵が今日の友になるような村社会では、口で人をやっつけても損こそすれ得はしない。後腐れもする。

もともと我々はぬるい環境に身を置いているのだ。

だからアメリカで私は言われっぱなしだった。誰かがスコアをつけていたら、同情したくなるような点差だったに違いない。

でも0点だったかと言えば、そうでもない。

 

男二人でバーに飲みに行ったときのこと。相棒のエリックはおしゃべりが上手いのでどこに行っても人気者だ。美人の女の子に二人でアプローチをかけた。話しぶりから、ずいぶん田舎の出だということが分かった。

エリックが席を外した瞬間、「ダサいチャイニーズは引っ込んでな」という声が背後で聞こえる。振り向くと、バーのストゥールに座っている太った女がせせら笑っていた。美人に連れがいたのだ。

普段なら何も言い返せない私だが、その夜は違った。

「そんなに東洋好みなら、カンフー・キックの威力は知ってるよな。あんた口に気をつけないと、今夜トレーラーに這って帰ることになるよ」

相手が放ったステレオタイプに、田舎の白人=トレーラーハウスに住む貧乏者というネガティブなステレオタイプで答えた揶揄だ。おまけに恫喝してる。今で言う倍返しに、彼女は唖然として、すぐにそっぽを向いた。

戻ったてきたエリックに報告すると彼は爆笑したが、なんとなく後味が悪い。ハイ・タッチするほどに心が晴れなかったのは、きっと日本人である私のDNAのせいにちがいない。

 

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