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暮らしてみたアメリカのこと。留守にしていた日本のこと。

その華麗なる手口

私は今、とても人気がある。

知らない人たちからひっきりなしにメールが届き、写メを見てくれだの、ひと目会ってくれだの、何でもいいからとにかく連絡をくれだの、引く手あまたなのだ。

かる~くて卑猥な誘いがほとんどだが、なかには深刻な悩み相談もある。例えば、医者に余命2年と宣告されたという20代後半の女性から、「私の大切なものを受け取ってください」と頼まれるのだから大変だ。

アメリカにいたときもよく声はかかったが、あちらではお金に関するものがほとんどで、くれると言う額が桁違いだった。お金のなかった留学生のとき、「あなたに100万ドルの宝くじがあたるかもしれません」という通知を郵便受けに見つけたときは、頭の中が一瞬真っ白になった。

それ以後受け取った同様の手紙は数多く、差し出し人は年老いた億万長者、理想に燃える篤志家、追われる身の運動家などさまざま。共通していたのは「とりあえずあなたの銀行口座に関する情報を…」というくだりだ。

アメリカを出た後にも、こんな手紙が転送されてきた。

 

ヨークシャー銀行のマネージャーのポール・シェファードと申します。突然のお便りにて失礼いたします。

先日ヒロシ・J・イワブ氏は、休暇先のバミューダで飛行機事故に遭い、奥様とご子息と共に亡くなりました。英国日本大使館の協力を得て、氏のご親戚に当たる人物を探しておりますが、現在のところ一人も見つかっておりません。

従って、もし貴殿が受取人として名乗り出るのであれば、私が管理しているイワブ氏の2800万ポンドにおよぶ資産うち60パーセントを差し上げます。名乗り出る意志がおありでしたら、早急に書類作成を始める必要がありますのが、とりあえずは貴殿の銀行口座情報を…

 

私の父の名は確かに岩部浩巳だが、ミドル・ネームはない。母とともに健在で、日本で質素に暮らしている。私の知るかぎり、ロンドンの銀行に大金を預けていない。そもそも一緒に死んだという一人息子が私なのだから話しにならない。つまり、書かれている事柄は名前の他はすべてデタラメだし、身寄りのない金持ちの遺産を遠縁の者が相続するという筋書きなのだろうが、その部分をきちんと説明していないので説得力がない。

それでも、バミューダとかイギリスの銀行とか場所の設定に妙があって、ストーリーとしてのポテンシャルはありそうだ。もっとくわしく読みたいのだが、贅沢を言わせてもらえれば、悲劇の一点ばりでなくぜひユーモアも加えてほしい。だいたい詐欺自体が欲という人間の業にからむ暗いものなので、使うお話は笑いを含んだ悲喜劇の方がいい。

では氾濫するこの手のメールや手紙、一体誰がどこで書いているのだろうか? 送出はオートメーション化しているとしても、実際に文章を考える者がどこかにいるはずだ。誰かの副業か何かで、自宅やオフィスの隅でひとり悶々としながら綴っているのだろうか?

せっかくだから、喫茶店や酒場に寄り集まった一攫千金を狙う仲間たちが、ああでもないこうでもないとワイワイ言いながら書いている、そんな楽しげな様子を想像してみる。

 

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