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暮らしてみたアメリカのこと。留守にしていた日本のこと。

スウィート ホーム

「アメリカ人は一体、何にお金使うの?」

ある人にそう聞かれて、答えに詰まったことがある。衣服でないことは見れば分かる。食でもない。どちらにもこだわる彼女にとって、そのことはすでに自明なのだ。

では、家だろうか。確かに住居には皆できる限りの贅沢をしているように見える。だから「家だよ」と答えたけれど、はたしてそうだろうか。

アメリカ人は収入の最大3割まで家賃やモーゲージに充てるという話を聞いたことがあるが、それが本当だとすると、この割合は他国と比べてどうなのだろう。

いずれにしても、彼らの住宅環境がものすごく豊かなのは間違いなく、これに関して異議を差し挟む者はいないはずだ。

ちなみにその女性に「何にお金を使うの?」と聞くと、「旅行」と返ってくる。同じように答える日本人は多いのではないか。新しい日本での職場で、夏休みを取ったと言うと、必ず「どこに行ったんですか?」と尋ねられた。

米国で休み明けの同僚に何をしたか聞くと、「I worked around the house」という返事が多かった。初めは何のことか分からなかった。休暇中に家の用事?

謎が解けたのは、自分で家を買ってからだ。メインテナンスをきちんとしないと価値が下がってしまうのだ。家を購入してからでも頻繁に引っ越しをするアメリカ人にとって、家を持つことは投資なのだ。売る時に備えて手入れを怠ってはならない (私の場合は小さなタウンホームだったので、やることがあまりなかったけれど)。

もちろんこのフレーズには、「家でゆっくりしたよ」という意味も含まれている。そもそも休みに限らず、普段から、アメリカ人が自宅で過ごす時間は日本人のそれよりもずっと多い。働く時間も通勤時間も短いのだから当然だ。

先日、アメリカの事情に詳しい日本人と、彼(か)の国の暮らしのゆとりについて語り合ったとき、ほぼ同じような情景が二人の頭に浮かんでいることが分かった。

 

仕事も退けたので家に帰ると、まだ5時すぎだ。夏時間なので明るい。子供たちと一緒に近所のプールでひと泳ぎして戻ると、妻も仕事から帰ってきた。シャワーを浴びてビールを持って庭に出ると、犬が走り回っているのが見える。その向こうで隣人たちがBBQをしているので歩み寄り、彼らと雑談して、お互いの冗談に笑ったあと、ワイン・グラスを手に傍らに立っている妻に「ところでハニー、ウチの夕食は何?」と尋ねる。

 

たとえ身につけている服がクタクタでも、グリルの上の肉がグダグダでも、こんな時間をごく普通の人間が日々持てるということは、やはり豊かさ以外の何者でもない。

で、ここからオチがふたつつく。

ひとつは、奥さんはきっと「夕食はアンタが作るんでしょ、ダーリン」と答え、これは冗談でも何でもないこと。

もうひとつは、この例え話をした我々は、仕事帰りの酒場に居て、私はこの後一時間半かけて夜遅く自宅に帰ったこと。

 

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