f8

暮らしてみたアメリカのこと。留守にしていた日本のこと。

2013-06-01から1ヶ月間の記事一覧

行き倒れ

男は手足をねじ曲げて倒れていた。突っ伏して、失禁し、まるで映画やドラマに出てくる死体を演じているような体勢で微動だにしなかった。濃紺のスーツの袖から出た右手は黒い鞄をつかんだままで、ちらりと見えた横顔はひどい鉛色をしていた。 JR渋谷駅のハチ…

契約社員

今回の転職がほぼ決まりかけたころ、両親に連絡を入れると、二人は揃って動転した。もう日本には帰ってこないと思っていた息子が、妻子と一緒に、つまり彼らの孫娘二人を連れて帰国するらしい。 数日後、電話をかけてきた父親は、先方からの返事を悠長に待っ…

もらえたよ、免許証

二俣川と聞いて、自動車教習所を思い浮かべるなら、きっとあなたは神奈川県民だ。っていうか、それ意外何も思いつかないよな、などと考えながら二俣川駅の改札口に向かっていると、「教習所はこちら」という巨大な看板が正面に掲げてあった。何もそんな大き…

絞りは標準

このブログのタイトル、f8は、「F8. Be there」というフォトジャーナリストへの箴言からとった。どうしたらいい写真を撮れるのか問う弟子に、マスターがひと言、「F8。その場にいること」と答えたというエピソードは、アメリカでよく耳にした。 F8とはFocal8…

ミックステープ

パーティーで出会った男とミックス・テープの話になって盛り上がったことがある。彼も40才台のロックが好きで、気に入った曲を編集して友人にあげることがやめられないらしい。 いい年して中学生みたいだし、著作権の侵害だし、趣味の押し売りははた迷惑だか…

湘南新宿ライン 1

「このないだ席替えがあったときさ、マッツが私の隣がいいって」 「えー」 「でも、押しすぎてもヤバイから、いま様子見で」 「いくつですか?」 「23。アタシより6つ下だけど、前の女は12上だったって」 「げっ、ウソ」 「ヤベ君もいいんだけどさ、ち…