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暮らしてみたアメリカのこと。留守にしていた日本のこと。

2016-01-01から1年間の記事一覧

坂の途中

作家の丸谷才一は、坂のある町が好きだった。家も坂の近くを選んで住んだらしい。確かそんなことを書いたエッセイがあった。 私は住まいを決めるときに、坂のあるなしは考えなかったけれど、思い返してみると、確かに勾配の多い土地での暮らしは楽しかったよ…

私の浪費癖

イヤホンに浪費してしまう。しょっちゅう断線するし、うっかり置き忘れたりして長く持てない。ないと通勤が退屈になるので、また新しいものを買い求める。 音圧とか再生周波数帯域とかリケーブルとか、くわしくは語れないけれど、ものによって聞こえる音の違…

飲み会で言えなかったセリフ

「あのさ、せっかくの場がしらけるし、正論振りかざすのは嫌なんだけど、やっぱり言わしてもらうわ。さっきからそれで何回も笑いとってるし。大体こういう笑いがあるから本性を隠すんだよ。 一人二人の大声で言う悪口より、こうやって大勢でなんとなく笑うほ…

究極のPC

「どれがあなたの赤ちゃんですか?」 振り返ると、大柄な黒人男性が立っていた。 彼がそこにいるのは知っていた。しばらくのあいだ二人で、窓越しの新生児たちを黙って眺めていたから。もうすぐ夜が明けるころだった。 私は自分の娘が寝ているベットを指差し…

ここではないどこか

地方の出の人ほど、東京に住みたがる。それもお洒落とされる区や駅の近くに。 なんて書くのは、やっかみが半分。東京の住まいに手がでない私は、自分の生まれ育った神奈川県の戸塚という街に戻り、そこから毎日長い時間をかけて東京駅まで電車通勤している。…

A Night in Hiroshima

アメリカには現在、2000発を越える核弾頭が配備されている。未配備や解体待ちを含めると、7000発以上の核弾頭があり、それが相変わらず他国への脅威になっている。そのことを私たちは知っている。 アメリカ政府は今、爆発力を制御し、狙いをより正確に定めら…

6秒の沈黙

トイレに行っていなかったのは失敗だった。小学生の卒業式を甘くみていたわけじゃないけれど、こんなに厳かな雰囲気で、こんなに長い時間やると思っていなかった。 そうは言っても、子供だってちゃんと座っているのに、大人の私がガサガサと席と立っておしっ…

ショーンKに告ぐ

甘いルックス、渋い声、一分の隙もない服装。「報道ステーション」に彼が出てくるたびに、なんとなく身構えたものだ。出来すぎ感が強すぎて、肝心なコメントが印象に残らない。 そのショーン・マクアードル・川上氏、学歴詐称が明るみに出た数日後に涙の声明…

放浪後記

「ジャングル、行きてぇ」と言った彼女の眼が光った。 自分よりひと回り半も若いとはいえ、旅に出たいと言って力むような年齢でもない。でもティーンのころから海外で暮らしてきた彼女にとって、東京はもともと一時的な腰掛けの場所なのかもしれない。 「別…

ゲスマップのきわみやざきよはら

べッキー・ゲスの極み→SMAP→清原→イクメン議員、ときたここまでの2016年… なんてスラスラ書けるくらい、つまりゴシップにだってちゃんと通じられるくらい、日本での暮らしにどっぷりと浸っている。帰国してもうすぐ3年になる。 でもベッキーとローラをずっと…

ナショナル・アンセム

その「事件」は高校入学のオリエンテーション合宿で起きた。 長い一日の終わりにキャンプ・ファイアがあり、クラスごとに歌を披露することになっていた。 次々に発表が終わり、最終組だった私たちが立ち上がった。他のクラスのように流行り歌にすればいいの…