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暮らしてみたアメリカのこと。留守にしていた日本のこと。

メディア・ストーム

アメリカでは小さな街に住んでいたので、日本人が大勢で訪れると、それだけで地元のニュースになることがあった。

日本の色々なことに飢えていた私は、取材にかこつけて彼らに会いに行った。

学生と言葉を交わしたりビジネスマンと名刺を交換したりした。ある教員のグループとはすっかり意気投合してしまい、彼らのその後の学校ツアーやパーティーについて回ったこともある。

実にたくさん日本人が、実にさまざまな理由でアメリカの田舎くんだりまでやってきた。

その中で一風変わったグループがあった。それはマスコミだ。

時の人を追いかけて、メディアで働く人間がときどき大挙して押し寄せたのだ。彼らは台風のような勢いでやってきて、 辺りのいろんなものをなぎ倒し、そしてあっという間に去っていった。

 

ノース・カロライナには日米大学野球でプレーした「ハンカチ王子」こと斎藤佑樹投手や、拉致被害者の曽我ひとみさんの夫・チャールズ・ジェンキンズ氏が大群を伴ってやって来た。

マスコミの人間が群れて起こす騒ぎはどこの国でもある光景だろう。でも、他国に出掛けてまでやるものだろうか。それは単に日本のメディアがお金持ちだという証でもあるのだが... 。

同業者であるはずなのに、横で仕事ぶりを眺めていると奇妙な違和感を感じた。激しい取材競争をしているようで、実は皆同じ映像を撮り同じコメントを取っているように見えた。私の偏見だろうか。

ただ、例えそうだとしても仕方のない事情もあった。「ハンカチ王子」もジェンキンズ氏も我々の前にほとんど姿を現さなかったのだ 。(それを想定した上で来ていたのかどうかは分からない)「王子」には試合があるからまだよかったが、ジェンキンズ氏は初日の夕方に一度玄関先から手を振ったきり、訪ねた母親の家に3日間閉じこもったままだった。その間遠来の業界人たちは、家の前で待つのみだった。

 

再び日本に戻る前日になって、ジェンキンズ氏はようやく表に出てきた。外国人はおろか地元の人間も訪れないような辺鄙な街の一画で盛大な囲み取材が行われた。

騒ぎが済んでから、私は自分の勤める新聞のフォトコラムに一枚の写真を選んだ。道端に座り込んで作業をしたり休憩をとっているテレビ局のクルー5、6人を写したものだ。ノース・カロライナの住民にとっては、投降者のホームカミングと同じくらいこの光景がニュースだった。

しかし、キャプションを書く段階になって予想外の問題が持ち上がった。写っている当人たちの協力が全く得られなかったのだ。

撮影時に貰っていた名刺に電話をかけると、「皆に迷惑がかかるから」話せないというスタッフ。ディレクターにいたっては、コメントが欲しいという私のリクエストに対して不快感をあからさまにしたので、私も頭に血が上ってしまい、「我々は人からコメントを貰ってメシを食っているんですよね? どうして自分だけダメなんですか?」と口走ってしまった。電話は乱暴に切られた。

 

先日、仕事帰りに小さな人だかりに遭遇した。大柄のブロンド女性がポーズを取りながら渋谷の街を散策している。

その周りを囲む十数人のお付きとカメラマンたち。皆背の高い白人だ。

聞けば、来日中のデンマークの首相だという。

センター街の喧噪の中ではさほど目立たなかったが、これも「海外メディアの騒ぎ」だったことに違いない。周りの風景からも完全に浮いていた。

遠巻きの中に、複雑な気持ちで眺めている在日デンマーク人がいたかどうかは分からない。

 

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