f8

暮らしてみたアメリカのこと。留守にしていた日本のこと。

香港日記

 Day 1

出張で初めて香港へ。キャセイ・パシフィックという航空会社を使った。ほぼ中央に座っていたけれど、反対の通路からアプローチされている隣の人には「チキン」か「フィッシュ」のチョイスも「赤ワイン」か「白ワイン」のチョイスもあったのに、「フィッシュ」と「赤ワイン」しかないと言われた。「まあいいよ」と答えて食べ始めると、自分にだけロールパンがきていないことに気づいた。呼び止める「すみません」の声がつい大きくなってしまう。

ホテルにチェックインしてボスに電話。すぐに顔を出してと言われる。ロビーで道順を聞き、言われたとおりショッピング・モールを抜けて行こうとすると、さっそく迷う。延々と続く地下道が気味悪い。

Day 2

オフィスもモールもホテルも冷房がガンガン効いている。こちらは持参したフリースが重宝しているのに、皆は慣れているのか半袖で悠々としている。夏は暑いんだろうな。

Day 3

街を歩く人の所作はせわしない。足速にJ-Walkする様子は見ていて爽快だけど、譲り合う感じはまったくない。でも群衆なのに統率がとれている、あの日本の人混みの方が不思議なのかも。どんなに混んでてもぶつからずに、周りとなんとなく歩調を合わせられる希有な能力。

背が高くてスタイルのいい女性が多いような気がする。でも服装のセンスはかなり微妙。懐かしき日本のボディコンみたいなのが流行っているのだろうか。そういえばホテルの前にも街中にもヨーロッパの高級車が溢れているので、バブリーな感じがする。「違うよ、ここは栄えて150年以上になるんだよ」と言われるかもしれないけど。

Day 4

風邪が治らず体調がすぐれない。夜はヘトヘトで職場からホテルへ直帰。

Day 5

待望の週末。朝寝してからブランチを食べ、散策に出る。港で行き来するフェリーを見て、市場や大学の周りをうろつく。楽しい。マーケットは眼に刺激的。音楽は聞こえてこないので耳は退屈。大変なのが鼻だった。下水の臭いに、ときおり食べ物の甘い匂いが混じりあう。

大衆食堂で夕食。混んでいたので若い男性と相席になる。香港人のグラフィック・デザイナー。東京と大阪に観光で行ったことがあるらしい。「日本人は礼儀正しくてナイスです」と言う。礼を述べてから「ところで中国への正式返還って、香港の人たちには心配事なの?」と聞くと、 顔が一瞬引きつったように見えた。

Day 6

日本からのメールをチェックしていたら「パリが大変」とあったのでテレビをつける。画面から目が離せなくなった。こういうときは情報の早いCNNを観てしまう。より慎重なBBCの方が誤報の可能性が少ないとわかっていてもだ。NHKにも何度か合わせたが、普段通りの番組編成で「のど自慢」をやっていた。

日本政府が作ったコマーシャルがCNNで繰り返し流れていた。このタイミングで放映されたのはもちろん偶然で、事件があったから私を含めて沢山の人が視聴することになった。いろいろな職業の日本人が自分が行っている国際貢献について語る60秒くらいのスポットなのだが、どのバージョンにも〆のカットに安倍晋三の写真がでてきて、「私たちは国際的な貢献を続けます」という彼の言葉が表示されて終わる。何というセンスの悪さ。この男は自分が顔を出すことでPRの効果が上がると本気で考えているのだろうか。

Day 7

中国語のチラシを受け取ろうと思ったら、配っていた女性がさっと手を引っ込めた。地元の人間のふりが上手くいっていると思っていたのにバレていたらしい。

喉の不調の原因は街中の空気だろうか、ホテルの部屋の空気だろうか。

Day 8

街中で目立つのが白人たち。やはりイギリス人が多そうだ。観光客っぽいのに、我がもの顔で歩いている様子はなんとなくむかつく。白人男と歩いているアジア系の女性が美人ばかりなのにはもっとむかつく。

Day 9

仕事の後めずらしく余力があったので、シャワーを浴びて外へ。運動不足を解消しながら夕飯の場所を物色。狭い通りに入ってゆくと露出度が高い服を着た女の子が数名。と、向こうからきた浅黒い肌の巨漢の男が「平日なのにセックスできるなんていいな」と聞こえよがしな独り言。すれ違いざまにチラッと視線を送ってきたので、目をそらすと、ほぼ同時に向こうも目をそらす。声をかけたという事実すら残さない見事な瞬間芸だった。

バカでかい看板を掲げている中華料理屋へ。入り口の女性が案内する前にまずメニューを見ろという。ちょっとバカにされたような気がして「大丈夫」とジェスチャーして中へ入ると、グループの団欒ばかりで嫌な予感。やっぱり値段も張る。気後れして「トマト風味と蟹風味の焼き飯」を頼むと、大皿に盛って出てきた。2~3名用の料理を頼んでしまったらしい。味も大したことない。こういうドジを踏んで異国にいることを実感するんだ、と自分に言い聞かせて店を出る。

Day 10

「最後の夜だから」といって同僚が夕食に連れ出してくれる。イタリア食料品店に椅子とテーブルを置きました、みたいな気取らないレストラン。とても落ち着く。店内にかかるロックは曲ごとに言語が変わるごちゃまぜぶり。同席したのはイギリス人、香港人、スコットランド人。香港人は元オーストラリア在住らしく、英語も当地仕込み。

会話についてゆくのが大変だった。痛感したのは、共通する知識や体験がないと言葉は断然通じにくくなるということ。アクセントに不慣れだし、聞いたことのないフレーズの連発ですでに大変なのだけど、話題自体に知らないものが多かった。「クリスマス時期のロンドンときたら…..」と一人が切り出すと後の二人が「そうそう」となり(めちゃくちゃ混雑して不便らしい)、「こんなときのアイルランド人って…..」と他の一人が口にすると残りがどっと受ける(最後まで何のことかわからなかった)。英語はムズカシイ。

Day 11

早朝チェックアウト。昼まで仕事をしてそのまま空港に直行。疲労困憊しているけど、窓の外の風景が着いたときより優しく見えるのは気のせいか。自分の所属するチームが香港を拠点としているのでまた来るかもしれない。そのときまで、さよなら。

帰りの便はなぜか提携しているJALの飛行機。お腹も空いていないので機内食をパスしたら、皆のトレイにハーゲンダッツのアイスクリームが乗っているのを発見。でも「アイスだけちょうだい」というのも恥ずかしいなと躊躇していると、(たぶん)香港人の機内アテンダントが「アイスダケ、イリマスカ」と日本語で声をかけてくれた。気が利くなぁと感動して待っていると、わざわざ取りに行ってくれた彼女は、キンキンに冷えたカップを差し出しながら「スコシ、タカイデス」と言って微笑んだ。高い? あっ、固いってことか。日本語だってムズカシイのだ。

 

f:id:majide0:20151128105358j:plain