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暮らしてみたアメリカのこと。留守にしていた日本のこと。

「大草原の小さな家」

週末の朝早く、目が覚めたので何気なくテレビをつけると、「大草原の小さな家」をやっていた。

アメリカの懐かしいドラマだ。

かつて国会でゴタゴタがあり、NHKが放映中のこのドラマを中断して議場から生中継したことがあった。すると翌日の新聞には、「道徳を学んでいた全国の青少年たちに、大人のダメなところを見せて恥ずかしい」という内容の記事が掲載された。

当時のお茶の間の影響力を感じさせる話だが、いかにこれが大人たちに推奨されていたドラマだったかもわかる。

10歳くらいだった私も、家族揃って見た記憶がある。

 

冒頭、一家が馬車で移動の旅に出るところが映し出される。

アメリカ西部の美しい自然。愛すべきインガルス家。

やがて流れの速い、大きな川に出くわす。ママ (Ma)も娘たちも、「危ないから止めておこう」という雰囲気を出しまくるのだが、勇気あるパパ・チャールズ (Pa) の英断で横断を始める。

案の定、馬たちが深みにはまって前になかなか進まない。馬車がぐらりと傾いた瞬間に、飼い犬が川に落ちてしまう。叫ぶ次女ローラ。

結局なんとか無事渡りきるのだが、犬の行方がわからない。パニクったローラが川沿いを走り回る。止めるパパとママ。

「だから渡らない方がいいって言ったじゃない」と言ったかどうか(家人が寝ていたので音を消して見てました)、とにかくローラとパパが一日中ぶつかる。

泣きじゃくるローラの前に、やがてびしょ濡れのワンちゃんが姿を現す。一件落着だ。

場面は月の明るい夜になり、たき火の残り火の前で独りフィドルを奏でるパパが映し出される。と、背後に思い詰めた表情のローラが現れて、「パパごめんね」とかなんとか。パパは許すという感じで何か言い、娘を抱きしめながら夜空を見上げて、ワンちゃんを無事に返してくれた神様にお祈りしようと促す…。

 

おいおいおい。判断間違えてワンちゃんを溺死させそうになったのは Pa のせいじゃないのか?

あのまま立ち往生すれば、家族の身の危険だけでなく、馬車に積んだ家財すべてを失う可能性もあったのだから、リスクマネージメントの甘さを反省すべきは誰なのか。

そういえば出立するとき、持ち馬の一頭が妊娠していてめでたいと喜んでいたけれど、水の中であれだけ無理させたので流産したのではないか(途中コーヒーを入れに立ったので、この部分は不明です)。

唖然として画面を眺めていると、エンドロールに Directed by Michael Landon の文字が流れた。チャールズ役の俳優本人が、番組のディレクターだったのは知らなかった。それなのに、というかだからなのか、際立ったパパのワンマンぶり。あのフィドルの場面も自ら演出したのだろうか。

ちなみにこのエピソードで、視聴者が学ぶべきモラルとは何だったのだろう。

 

原作はローラ・インガルス・ワイルダーの小説ですね。

アメリカの保守の人々のバイブルとも言われる本だが、「風と共に去りぬ」同様、後になってから差別的な表現が問題視されてきた作品だ。フロンティアを美化しているのだから、白人至上主義的になるのは当然といえば当然だろう。

同じ開拓期の物語でも、最近読んだトレイシー・シュヴァリエの「林檎の木から、遠く離れて」はトーンが大違いで、アル中の母と、林檎の木の栽培に狂ったような執念をみせる父との間には、壮絶な喧嘩が絶えない。口論あり、暴力ありで、ロマンのかけらもなければ、モラルも遠くにかすんでいる。

むごすぎる二人の最期はやりすぎかもしれないが、入植という想像を絶する辛苦に荒んでゆく人の心が伝わってくる。新天地といえば響きはいいが、要は辺境の土地に石にかじりついてでも住むことであり、先住民のインディアンの掃討なのだから、当時の人々の生活の実感はあるいはこんな感じではなかったか。

その残酷な現場から逃げるように旅立ったひとりの息子の数奇な人生、そして彼の妹との行き違いと邂逅には胸を揺さぶれるが、漂うのはロマンなどではなく、過去を断ち切って生きることしか選びようのない者たちの悲しみと潔さだ。

おじさんになった今の私は、リアリティーを感じさせるこちらのナラティブにより心惹かれる。

 

でも美化したからこそ、「大草原の小さな家」は本もテレビも「不朽の名作」になったのは間違いない。世界中で翻訳され、放送されたという。40年後にNHKで4K完全復刻版とか、日本での人気も半端ない。

ウィキペディアをのぞくと、パパ役のマイケル・ランドンはユダヤ人の父を持つニューヨーク出身の俳優で、ヘビースモーカーで大のつくお酒好きだったそうだ。3回結婚して子供が9人いるが、最後のお相手は「大草原の小さな家」の制作スタッフだったメイクさんで、シーズン7の撮影中の不倫の末に結ばれたという。ふーん。

すい臓ガンで54歳で没。

子供のころ好きだったテレビ番組とか、あまりうかつに見るものでもないようだ(強いて言えば、これが今回私が学んだモラルです)。

「刑事コロンボ」はそっとしておこう。

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