湘南新宿ライン 1
「このないだ席替えがあったときさ、マッツが私の隣がいいって」
「えー」
「でも、押しすぎてもヤバイから、いま様子見で」
「いくつですか?」
「23。アタシより6つ下だけど、前の女は12上だったって」
「げっ、ウソ」
「ヤベ君もいいんだけどさ、ちょっと顔がさ」
「キックボクサーのですか?」
「ザ・日本って感じで、めちゃめちゃ薄いんだよね」
「でも彼、ぜったいいいヒトですよ」
「うん、『いいヒト』で終わるタイプ」
「入って間もない奴に議事録書かせるなんて正気の沙汰かよ」
「あっちはワキタさんとか」
「あの人調子いいだけ。仕事できるように見えてあんまりできない」
「誰が言った? サトウさん?」
「顔は笑ってたけど、ひどいこと言いまくりみたな」
「彼は正社員じゃないよ。早く帰るし」
「だいたい徹夜したことないってのもおかしいよな」
「月曜日の会で次の体制発表になると思ったけど」
「もうチームはあるんだよ」
「えっ?」
「この間の納品マジびびった。失敗したらどう言い訳しようか必死こいて考えてた」
「 ... 」
「会社寄ってった方がいいか。次の出張も行けるように」
「今ごろになって、どれだけお金がかかるかわかったのよ。サッカーと塾行って月一人6万よ。『サヤカのときもこんなにかかった?』って聞くから、『そんな昔のこと覚えちゃいないけど、今は価値観が違うんでしょ』って。旦那さまとも上手くいってないのよ。今更そんなこと言われてもね。できちゃった婚だったんだから、賛成も反対もなかったのよ。『あんた今から遊べるじゃん。37で子供が中1と中2なんてなかなかいないよ』って言ったら怒ってさ。アタシも気分悪いから黙ったら、向こうも意地張ってすごいの。昨日も『これ、誰の曲だっけ?』って振ってるのに、知らんぷりしてさ」
「うちのだって...」
「親子っていいもんなのにね。とくに女の子はさ、小さいころが可愛いからねぇ。本当はメグももう一人産みたかったのよ。でもサトウはオトコっぱらだから、3人目は止めたの」
「昨日も終電でしたっけ?」
「…..」
「ムロカワさんって、結婚に興味あるんですか?」
「…..」
「社内結婚多いですよね、ウチの会社」
「室長と?」
「庶務のヤスダさん」
「と?」
「カオリさんですよ。知らなかったんですか?」
「…..」
「お疲れさまでした」
「お疲れ」
「バイバーイ。また、明日ぁ」
「って、もう今日だけど」